半導体製造装置市場の最新動向と今後の成長

半導体製造装置市場の最新動向と今後の成長

半導体の進化を支える基盤として、製造装置の役割はますます重要性を増しています。AIや高性能計算(HPC)に代表される新たな技術需要に加え、微細化や3D構造などの革新が加速する中、製造装置市場もその変化に呼応するように動き出しています。本記事では、現在の半導体製造装置市場の成長要因や世界・日本それぞれの市場動向、そして設備投資のトレンドを地域別に整理しながら、今後の展望を詳しく解説していきます。

半導体製造装置市場の現状と成長背景

AI関連処理の高度化や微細加工技術の進展により、半導体製造装置にはより高い精度と柔軟性が求められるようになりました。特にEUV露光装置や新材料に対応したプロセス装置の需要が顕著で、これに伴う装置更新の動きも加速しています。こうした背景を受け、製造装置市場は長期的に成長を遂げると予測されています。

AIと微細化が牽引する装置市場の拡大

近年、生成AIや機械学習といった高度な演算処理を支える半導体の需要が急増しており、それに対応する形で製造装置市場も進化を続けています。特に注目されているのが、先端ロジック半導体の製造に不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置です。従来のArF液浸露光では限界がある10nm未満の微細パターン形成を、EUV露光によって可能にし、3nm、2nm世代への移行を後押ししています。

また、配線やトランジスタ構造の立体化・複雑化により、成膜やエッチング工程も一層の精度と多機能性が求められています。たとえば、ハイアスペクト比の配線構造に対応するためには、プラズマ特性を細かく制御できるエッチャーや、原子層デポジション(ALD)による高均質な成膜技術が不可欠です。

AIチップに求められる高密度化・多層構造の増加により、後工程装置でも高度な接合精度や熱管理性能が求められており、ボンディング装置や検査装置の高性能化も進行中です。このように、微細化とAI向け高性能化という二軸の需要が相乗的に装置市場を押し上げており、装置の開発サイクルも短期化しつつあります。技術革新が続くなかで、装置メーカー各社は顧客ニーズに即応した次世代機種の投入を競っています。

新材料・プロセス導入による装置更新の必要性

先端半導体の製造現場では、FinFETやGAA(Gate-All-Around)といった新しいトランジスタ構造の普及に伴い、従来の装置では対応困難なプロセスが急増しています。特に、トランジスタに用いられる材料がシリコン中心からシリコンゲルマニウム(SiGe)、コバルト、タングステン、さらにはゲート絶縁膜としてのハフニウム酸化物(HfO₂)などに多様化することで、成膜・エッチング・洗浄といった各工程で高い化学選択性と制御精度が必要になっています。

これらのプロセスは原子レベルの厚みや形状の制御が要求されるため、従来型の装置では性能・歩留まりともに確保が難しく、新材料に最適化された装置への刷新が不可欠です。たとえば、界面欠陥を最小限に抑える原子層洗浄(ALE)や、ナノメートル単位で均質な被膜を形成するALD(原子層堆積)装置など、極めて高精度な制御機構を備えた装置の導入が急務となっています。

また、配線層や絶縁膜の多層化により、プラズマダメージを抑えながら複雑な形状に対応できるドライエッチング装置の高度化も進んでおり、これらに対応する新世代装置の開発と導入は、製造プロセス全体の進化を支える鍵となっています。

このような状況下、装置メーカーにとっては既存設備の置き換え需要が継続的に発生しており、単なる装置販売にとどまらず、プロセスソリューション全体を提供する提案力が競争力を左右する時代に入っています。製造装置の更新は技術革新を加速させる一方で、半導体エコシステム全体に波及効果をもたらす重要な要素となっています。

世界市場と日本市場の動向

世界半導体市場は一時的な調整局面を経ながらも、AIや車載向け半導体の需要増により回復基調へと向かっています。WSTSの統計をもとに、市場全体の数値動向や回復見込みを確認するとともに、日本市場の安定的な成長や為替影響についても取り上げます。

世界半導体市場統計(WSTS)の役割と予測

WSTS(World Semiconductor Trade Statistics)は、世界の主要な半導体メーカーが参加する国際的な統計機関であり、業界全体の動向を把握するための信頼性の高い市場データを提供しています。加盟企業は2024年現在で48社にのぼり、地域・製品別に細分化された詳細な出荷実績と予測データを通じて、業界関係者や政策決定者、投資家にとって欠かせない情報源となっています。

WSTSの発表によると、2023年の世界半導体市場は金額ベースで前年比8.2%減の5,268億8,500万ドル(約79兆円)となり、4年ぶりにマイナス成長へと転じました。この背景には、世界的なインフレ圧力、米欧を中心とした利上げの継続、そして地政学的リスクの高まりによる企業の設備投資抑制など、複合的な要因が影響しています。特に、民生機器やPC、スマートフォン向けの需要が落ち込んだことが市場全体を押し下げました。

一方で、AI(人工知能)関連市場は引き続き強い成長を示しており、データセンター向けの高性能GPUやAIチップの需要が堅調に推移しています。WSTSはこの動きを受け、2024年の半導体市場が前年比16.0%増の6,112億3,100万ドル(約92兆円)に拡大すると予測しています。とくに生成AIや大規模言語モデル(LLM)に対応するための高帯域メモリや先端プロセッサの需要が回復を牽引すると見られています。

このようにWSTSは、短期的な市場変動にとどまらず、長期的な需要の変化や技術トレンドの把握にも貢献しており、グローバル市場を見通す上で不可欠な機関となっています。

日本市場も安定推移を維持

日本の半導体市場は、世界全体の需要変動や為替レートの影響を受けつつも、安定した成長を続けています。世界半導体市場統計(WSTS)のデータによれば、2023年の日本国内の半導体市場規模は約6兆5,637億円で、前年比3.8%の増加となりました。さらに、2024年も同4.6%増の約6兆8,670億円と、着実な拡大が見込まれています。この成長は、円安による輸出採算の改善や、AI・自動運転・次世代通信など新たな産業分野での半導体需要が後押ししていると考えられます。

とくに注目されるのは、国内企業による製造・研究開発体制の強化です。AI関連の演算処理やセンシング技術に対応する半導体の需要が高まる中、日本の大手半導体メーカーやファウンドリは先端製造設備の導入に積極的です。また、自動車産業においても電動化・知能化の進展とともに、パワー半導体や車載向けロジックICの開発・生産が活発になっています。これにより、装置更新やライン増設といった設備投資が継続的に行われており、国内の製造装置市場にも波及しています。

さらに、経済安全保障やサプライチェーンの強靭化を目的に、政府による補助金制度や半導体政策も追い風となっており、国内市場の底堅い成長を支えています。今後も、日本は世界的な技術トレンドの中で重要な役割を担いながら、安定した需要基盤のもとで半導体産業の強化を図っていくとみられます。

半導体設備投資の傾向と地域別動向

半導体製造装置の導入には巨額の設備投資が伴います。特に先端プロセスを担う装置では、数社の大手メーカーによる投資判断が市場の大局を左右します。ここでは、TSMCやSamsungなどによる大型投資の影響を踏まえ、投資動向の全体像と、地域ごとの投資スタンスの違いを整理していきます。

設備投資額は大手メーカーの動向に左右される

半導体製造における設備投資は、技術の進化と市場の需給動向に応じて変動しますが、特に最先端プロセスを担う大手メーカーの戦略が市場全体に及ぼす影響は非常に大きいとされています。というのも、EUV露光装置や先端成膜・エッチング装置などの導入には、1台あたり数百億円規模の資本が必要になるため、こうした高額投資を実行できる企業は限られているからです。

世界市場では、TSMC(台湾)、Samsung Electronics(韓国)、Intel(米国)が三大巨頭として位置づけられており、これらの企業が設備投資を増減することで、業界全体の動向に直接的な影響が生じます。たとえば、TSMCが新世代の3nm・2nmプロセス向けにクリーンルームを拡張すれば、製造装置の発注が一気に加速し、装置メーカーの業績にも反映されます。逆に、景気減速や需要調整のために投資が凍結されると、関連産業全体が冷え込むことになります。

さらに、各国政府が戦略産業として位置づける中で、補助金を活用した大規模ファブの新設や増設計画も増加傾向にありますが、これも最終的にはTSMCやSamsungといった大手企業がその補助を受け取るかどうかに左右される面があります。つまり、業界構造としては、大手メーカー数社の設備投資判断が市場全体のキャパシティや装置需要を決定づける、寡占的な影響力を持つ状況だと言えるでしょう。

韓国・台湾・中国を中心に活発な投資

半導体前工程に対応する300mmウェーハ用装置への設備投資は、2023年に前年比4%増、2024年に1%増と比較的緩やかな伸びにとどまっていましたが、2025年には一転して前年比20%増という大幅な成長が見込まれています。これはAI処理向けの高性能チップやデータセンター用途の需要が世界的に拡大していることが背景にあり、とりわけ韓国・台湾・中国といったアジア主要地域では、引き続き積極的な設備投資が進行中です。

韓国では、Samsung Electronicsが先端GAA構造の3nmプロセスを量産し、次世代4nm以下への開発も本格化させており、それに伴うEUV露光装置や成膜・エッチング装置の導入が継続されています。またSK hynixもHBM(高帯域幅メモリ)生産体制の強化に注力しており、AIチップとの組み合わせを前提としたインフラ拡張が急がれています。

台湾では、TSMCが台南や高雄で2nm・1.4nm世代の新ファブ建設を進めており、政府の支援を受けた設備投資が加速しています。EUVによる高精度なパターニングに加え、チップレット対応の後工程設備への投資も本格化しており、垂直・水平両面からの製造力強化が進んでいます。

一方、中国では、米国による先端半導体輸出規制の影響を受けながらも、成熟プロセス領域での自給体制確立に向けた動きが加速しています。特にロジックや電源IC、車載用半導体などでの内製化を図る国策としての投資が大規模に行われており、設備市場のボリュームを下支えしています。

これら三地域の旺盛な投資意欲により、グローバルの製造装置市場は再び成長軌道に乗りつつあり、2025年には1,000億ドルを超える水準に達する見込みです。地域ごとの戦略が異なるものの、AIや電動車、自律走行といった成長分野を見据えたファブ投資の勢いは、当面続くと考えられています。

製造装置市場の地域別の状況と展望

各地域での装置導入状況は、政策・需要・供給体制によって異なる傾向を見せています。韓国、台湾、中国などは引き続き高水準の設備投資を継続しており、将来的な成長のけん引役として注目されています。今後の市場予測をもとに、各国・地域別の展望を詳しく読み解きます。

2023年の装置市場は一時減速も、今後は回復基調

2023年の世界半導体製造装置市場は、金額ベースで前年比1.3%減の約1,062億5,000万ドル(約16兆円)となり、4年ぶりにマイナス成長へと転じました。背景には、韓国や台湾の主要メーカーが設備投資を一時的に抑制したことがあり、先端ロジックやメモリ分野での装置導入が減速したことが影響しています。特に、韓国ではメモリ在庫の調整局面が続き、SamsungやSK hynixによる投資が慎重に進められたことが響きました。台湾でもTSMCが一部プロジェクトの投資時期を調整したことで、装置需要の伸びが鈍化しました。

一方、中国では米国の先端半導体規制が続く中でも、比較的成熟したプロセス技術を活用した国内供給体制の構築が進められており、電源ICやアナログIC、センサーなどを中心に投資が継続されています。そのため、中国市場は装置導入に関して依然として旺盛な動きを見せ、市場全体の下支えとなりました。

日本では、2023年の装置市場が前年比5.0%減の約79億3,000万ドル(約1兆2,000億円)と縮小しましたが、これは一時的な設備投資の調整によるものと見られています。国内でもAI向けや車載半導体の開発が進む中、前工程・後工程を問わず装置需要は徐々に回復傾向を見せており、2024年以降は安定した投資が継続される見通しです。

2025年にはAI需要の高まりや次世代プロセスへの移行を追い風に、装置市場全体が再び成長軌道へと戻ると予測されています。地域間での投資戦略の違いが見られるものの、世界的な技術進化を支える装置分野は、今後も半導体産業全体の中核として堅調に推移することが期待されます。

参考:NNA ASIA

2027年には1,370億ドルへ、長期的に高成長を予測

半導体製造装置市場は、短期的な変動を含みつつも中長期的には拡大基調を維持するとの見方が強まっています。米国の半導体業界団体SEMIの発表によると、300mmウェーハ対応の前工程装置市場は、2025年に初めて1,000億ドルの大台を突破し、2027年には1,370億ドル(約20兆5,000億円)に達すると予測されています。この背景には、AI(人工知能)やHPC(高性能コンピューティング)といった分野における需要増加があり、これに対応するためにより多くの高性能チップが必要とされている点が挙げられます。

また、最先端プロセスにおける微細化が限界に近づく中で、GAA(Gate-All-Around)構造や3D NAND、HBMのような立体構造型半導体技術の台頭も、装置市場の活性化に大きく寄与しています。これらの新技術は、従来の製造装置では対応が難しく、高精度な露光、成膜、エッチング、洗浄などに特化した次世代装置の導入が不可欠となっています。

さらに、地政学リスクやサプライチェーンの安定確保を目的とした製造拠点の多極化も、装置需要を底上げする要因のひとつです。米国、台湾、韓国、中国、日本、欧州といった各地域での新工場建設や設備更新が相次いでおり、それに伴い装置メーカーの受注も着実に積み上がっています。

このように、装置市場は短期的には景気変動や在庫調整の影響を受けることがあるものの、長期的には構造的な成長要因が明確です。微細化の限界を補う技術革新と、旺盛な計算処理需要が両輪となって、今後も継続的な市場拡大を後押ししていくと見られています。

参考:Semiconportal

まとめ

半導体製造装置市場は、AI処理の高度化や微細加工技術の進展により、引き続き堅調な拡大が見込まれています。とくにEUV露光装置や新材料に対応した次世代プロセス機器への需要が伸びており、大手メーカーの設備投資もその傾向を後押ししています。

地域別では、韓国・台湾・中国が中心となって活発な投資を継続しており、日本市場も安定成長を維持しています。中長期的には、微細化や3D構造の進展に対応するための装置需要がさらに高まり、2027年には1,370億ドルを超える成長が見込めるでしょう。今後も技術革新と地域別動向に注視しながら、市場の動向を的確に捉えることが求められます。

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